紙類海外動向レポート
2025年第5号 2025年8月


Contents
海外動向トピックス
欧州市況(7月度)
北米市況(7月度)
中国・香港・東南アジア市況(7月度)
【統計】5月 「出荷・輸出入・国内需要状況」(日本)
【統計】5月 米国輸入状況
【資料】米国関税動向


海外情報トピックス

*Suzano社 K-Cとの製造販売の合弁会社を欧州に設立 ティッシュ事業を世界的に拡大

Suzanoは、世界最大のパルプメーカーとして、Kimberly-Clark (K-C)との合弁会社を設立し、ティッシュ事業のグローバル展開を加速する。合弁会社は約34億米ドルを投資し、2026年半ばまでに欧州に設立される予定であり、本社はオランダに置かれる。Suzanoが51%、K-Cが49%の株式を保有する。
Suzanoは、K-Cの生産能力を活用し、世界市場へのアクセスを強化する。特に、K-Cの14か国22の生産拠点を活用し、欧州を含む主要市場でのプレゼンスを拡大する。また、ユーカリパルプの安定供給により、生産コストを低減し、競争力を強化する。
K-Cにとっても、この合弁会社は戦略的なメリットをもたらし、米国、メキシコ、韓国、バーレーンなどの市場に集中することが可能になる。これにより、効率的な資源配分と市場戦略の最適化が期待される。
この合弁会社は、SuzanoとK-C双方にとってティッシュ事業の世界的な拡大と効率化を実現する重要なステップとなる。

*インド政府 輸入紙に対して品質管理基準を強化の方向で検討

インド政府は、輸入書籍印刷用紙に対する品質管理基準(QCO)の導入を検討している。これにより、海外サプライヤーはインドの認証要件を満たすことが求められる。すべての書籍・印刷用紙はインド企画局(BIS)の認証を取得する必要がある。主に韓国、タイ、中国、インドネシアからの低品質な輸入品が対象となり、国内市場への影響が懸念されている。過去には、安価な紙板紙の輸入が国内製紙業界に打撃を与え、セーフガードやアンチダンピングの措置が検討されてきた。インド-アセアンFTAにより関税がゼロであるため、輸入が増加し、教育への投資を支える一方で、低品質品の流入が国内製紙業界の技術革新と供給能力向上の妨げとなっている。

*ナインドラゴンの増産計画が中国印刷用紙市場に与える影響

ナインドラゴン(Nine Dragons Paper)は、中国最大の紙パルプメーカーであり、湖北省の荊州工場と広西チワン族自治区の北海工場において大規模な増産計画を進めている。
荊州工場では、2022年に段原紙120万トンが稼働、2023年には機械パルプ60万トン、今年の3月には非塗工上質紙60万トン(35万トンと25万トンの2機)が生産を開始した。さらに、ここで6月末に、Andritz製の木材パルプ新ラインが稼働し、非塗工上質紙等の原料供給を強化する態勢を整えた。年産65万トンの能力を持つこのパルプ新ラインは、LBKP/NBKPの併抄が可能である。また、本年度はこのほかに、機械パルプ70万トンとコートアイボリー120万トンの新マシン稼働が予定されている。
一方、北海工場では、2022年第4四半期に段原紙80万トン、非塗工上質紙55万トン、機械パルプ20万トンの稼働を手始め、2024年1月には非塗工上質紙55万トン、さらに今年中には(本来の計画では第2四半期中)非塗工上質紙70万トンの新マシンが稼働する予定である。
両工場での新マシンの稼働により、今年は合計130万トンの非塗工上質紙が市場に供給される見込みで、既に供給過剰の状態にある市場に更に大量の供給増となり、供給過剰が悪化し、市況の回復の遅れが懸念される。

*北米段ボール市場の需要減少と生産調整の動向

北米の段ボール市場は、関税問題や景気の低迷により、需要と供給のバランスが大きく変化している。米国市場の第1四半期の段ボール実出荷量は前年同期比で2.1%減少し、2016年以来の最低レベルとなった。これは、関税問題や経済の不透明感が影響している。2023年の在庫調整期間を経て、2024年には一部回復が見られたが、実需を伴った需要には至っていない。
さらに、米国段原紙メーカーの輸出は本年第1四半期には前年比7.7%減少し、特に関税問題の応酬により、クラフトライナーの輸出はその後も大幅に減少している。1-5月累計のメキシコ向けは3.9%、中国向けは57.7%の減少となり、中国への輸出は関税問題の影響で一時商談がストップし、船積も見送られる状況となった。
このような状況に対応するため、段原紙メーカーは生産停止を進めており、2025年3月以降、IP/Red River, Campti工場、Greif、Smurfit Westrock/Forney工場、Georgia Pacific(GP)/Ceder Springs工場、Cascade/Niagara Falls工場が生産停止を発表、さらに直近ではCascadesがSpring Falls工場の中芯生産マシンを9月3日までに永続的生産停止とすることを発表した。北米の段原紙メーカー生産停止は、9月までに約240万トンに上る。
一方で、ND Paperは2024年4月以降に生産を停止していたBiron工場の25号機の生産再開を発表し、近日中に24万トンの再生ライナー及び未晒クラフト紙の生産が再開される見通しである。
このように、北米の段ボール市場は関税問題や経済の低迷により需要が減少し、輸出も低調な状況が続いている。今後も関税問題や経済状況、需給動向の変化には注視が必要である。

北米市況(7月度)

[新聞用紙]
北米市場の新聞用紙需要は、年初は好調だったが、輸入関税の影響で減少に転じた。1-5月の需要は前年同期比▲10.3%で、2025年度は▲13%の減少が予想される。輸出も1-4月累計で▲15%減少し、特に中国、欧州への輸出が大きく落ち込んでいる。5月の稼働率は95%へ上昇したが、中質紙への生産シフトが進んでいる。今後の市場動向によっては、代替需要の獲得や大規模な生産調整が必要となる。価格は6月も横ばいで推移している。

[印刷用紙]
米国市場における1-5月の印刷用紙の需要は前年同期比で▲2.3%の減少。構造的に雑誌や広告の需要減少が続き、景気の低迷を背景に企業の定期発刊物、請求書、各種書簡等の消費が減少している。第1四半期は輸入関税問題への懸念で、輸入品を中心に在庫の積み増しが需要を支えたが、第2四半期に入るとその影響は急速に後退。さらに、郵便料金の値上げが、今後の紙需要に悪影響を与えると予想される。

上質紙は、第1四半期に輸入関税問題の影響で輸入品中心に在庫確保が進み、累計需要は前年同期比▲1.7%の減少、輸入は+31.4%増加となり需要を支えた。しかし4月以降市場は様子見に入り、輸入は減少した。IP/Georgetown工場の生産停止(▲30万㌧)に続き、Pixelle Specialty Solution/Chillicothe工場が8月10日に生産停止となり、供給は一層タイトになることが予想される。本年後半には約40ドル値上げとなる可能性がある。
コート紙は、第1四半期に在庫積み増しがあったが、第2四半期に入ると、関税交渉の行方への懸念から、市場の動きは硬直した。景気の減速や郵便料金値上げの影響で、第2~3四半期の需要は5~8%程度押し下げられると予想される。供給面では、需要が低調であるにもかかわらず、生産削減等により北米メーカーの供給状況はタイトである。価格については、輸入塗工紙の主要メーカーが、今後の交渉次第で、輸入関税上乗せ分を価格転嫁するかどうかが注目される。

[段原紙]
米国市場の第1四半期の段ボール出荷実数は、前年比▲2.1%の大幅減少となった。第1四半期の米国段原紙メーカーの生産量は、前年比+0.4%となったが、輸出は段原紙全体でこの間同▲7.7%の減少となり、輸出は4月以降も減少が続いている。特にKLBの輸出は大幅な減少となった(1-5月累計で同▲11.8%)。北米市場の段原紙の価格は横ばいで推移しているが、低調な需要での推移のなか、原紙メーカーが値下げ要望に応じるケースも見受けられる。関税関連で市場は依然として不透明で、段原紙の需給は過多の状態である。今年3月以降9月までに、段原紙約240万㌧の生産削減が実施される。

欧州市況(7月度)

[新聞用紙]
6月の新聞用紙市場では、2Q契約分の価格が維持されている。需要は低位安定だが、中質系印刷用紙からの代替需要で比較的堅調である。平均稼働率は85-90%で推移しているが、コスト高の中で価格転嫁は厳しい状況。アジア向け輸出が低調な北米メーカーが、欧州市場で存在感を増しており、3Q交渉で価格下落の懸念がある。

[上質紙]
コピー用紙の需要が春以降低調、6月にはドイツ・フランスで€20-30の値下がりが見られた。南欧でも同様に値下がりが続いている。アジア品の流入が続き、値下げ基調が加速している。オフセット用もイタリアで€20下落、ドイツ・フランスで平判は€20程度下落。供給過多が続いており、市況の安定には生産能力削減が必要である。

[コート紙]
中国のパルプ価格下落が欧州にも波及し、6月にコート紙価格の下落が顕著になった。ドイツでは€20下落、フランス・スペインでは€10-20下落、イタリアでは最大€40の下落となった。夏場の非需要期には、価格対応も受注増に繋がらないため、供給サイドは価格変動を避けたいというのが本音である。市場は暫く硬直した動きを予想している。

[段原紙]
テストライナーがドイツ・フランスなどで前月から€40程度の値上げとなり、UK・スペインも横ばいで安定しているが、イタリアでは逆に最大€40の下落が見られる。これは新たに稼働したMondi/Duino工場の影響とみられる。クラフトライナーも一部で値上げが見られるものの、南欧市場では北米品の価格が据え置かれており、今後の段原紙の市況動向への影響が懸念される。

中国・香港・東南アジア市況(7月度)

[上質紙]
中国市場では、春先の出版用途需要が終わり、全体的に低調な荷動きが続いている。紙商は過剰在庫に苦しみ、安値での在庫投げ売りが見られる。パルプ価格の下落により先安感が広がり、需要回復の兆しはない。
香港市場でも、春の需要期が終わり、荷動きが鈍化している。中国メーカーの生産増強により供給余力が拡大している。パルプ価格の下落から、中国メーカーは7月生産より再度値下げを行っており、市況は軟化傾向が続くと予想される。

コート紙
中国市場では、印刷業者が必要な分だけを手当てする当用買い姿勢を続けており、紙商の在庫は概ね高止まり状態にある。パルプ価格の下落で市場価格は下落基調にある。メーカーは値上げ意向があるが、実需が伴なっておらず、価格は一段安となっている。
香港市場では、需要の低迷とパルプ価格の下落により市況は軟調である。中国メーカーが7月生産から再値下げを行い、価格低落がこの先も続く見込みである。米国向け出版物の再輸出品は関税政策の影響で取引が保留され、需要に影響を与えている。

板紙
中国市場の段原紙は、季節的な非需要期とEC商戦が低調であった影響で、内需が冷え込んでいる。市況の回復は暫く見込まれない。
香港市場では、アイボリーは中国メーカーの供給過剰で、市場価格の下落が続いている。白板紙は旧正月明け以降価格が下落しており、原料古紙の値上がりで一時的に価格上昇したものの、需要低迷により再び値下げに転じている。

東南アジア市場
東南アジア市場の紙板紙市場は、学校休業期間と長期休暇の影響で企業活動の停滞により、需要が減少している。印刷会社は機械設備を手放し、アウトソーシングや取次業務に焦点を当てる動きが増加している。米国との関税問題が紙需要に不確実性を与え、市況は価格の下落を伴う状況が続いている。市場価格は前月水準から更に軟化し、供給過多と在庫過剰により苦しい状況が続いている。

【統計】5月「出荷・輸出入・国内需要状況」(日本)

2025年5月の紙・板紙合計輸出は14万604トン(前年比12.6%減)、輸入は7万3,032トン(同0.8%増)となった。国内需要は153万9,478トン(同2.8%減)となった。
内需no
内需、輸出減、輸入増の傾向が続いた。

【統計】5月 米国輸入状況

米国の2025年5月の紙・板紙の輸入は合計58万5,063トン(前年比4.7%減)、金額は6憶4,029万5千ドル(同5.3%減)となった。そのうち印刷用紙合計は24万7,839トン(同5.0%減)、金額は2億6,867万4千ドル(同8.5%減)と減少に転じた。
同1-5月累計は紙・板紙合計で310万8,925トン(同6.3%増)、34億3,831万9千ドル(同7.0%増)となった。

組合員向けにTableauにて詳細データを掲載しております。

【資料米国関税動向

米国トランプ大統領が公表した主要国に対する相殺関税は以下のとおり。(2025年7月22日現在)

Japan 15%, Philippines 19%, Indonesia 19%, Vietnam 20%, United Kingdom 10%, European Union 30%, Mexico 30%, Canada 36%, Brazil 50%

(参考)以下の国の2024年米国紙・板紙合計輸入額

Japan 4,362万2千ドル(関税額推計654万3千ドル)

Indonesia 2億4,834万1千ドル(同4,718万4千ドル)

Vietnam 3,676.0万ドル(同735万2千ドル)