Contents
海外動向トピックス
欧州市況(6月度)
北米市況(6月度)
中国・香港市況(6月度)
【統計】4月 「出荷・輸出入・国内需要状況」(日本)
【統計】4月 米国輸入状況
【資料】The Great Trade Hack トランプ貿易戦争の失敗と世界の動き
海外情報トピックス
*ベトナムにおける再生段原紙の増産の動き
ベトナム北部では、旧式で小規模な製紙マシンを使用して低品質の段ボール原紙や家庭用紙を生産している多くの国内メーカーが、政府の環境基準を満たさない生産を行っていることが問題となっている。この状況に対し、ベトナム製紙連合会は、2024年度末を期限として、約200社(約100万トン)の生産設備の廃止を地方政府に命じた。この動きにより、特に北部地域で再生段原紙(中芯)の供給が急激にタイトになり、輸入紙の増加とともに新マシンの増設計画が加速している。
具体的な増産計画として、Toan Cau Paper社はHai Duong省の既存工場に新たな再生段原紙のマシンを導入し、2026年中の稼働を予定している。この新マシンは年産10万トンの生産能力を持ち、主に米坪60-120gsmの中芯を生産する。また、KORO Vietnam Paper Join StockもThanh Hoa省の工場に新マシンを増設し、年産10万トンの再生中芯を生産する計画である。
さらに、Miza Corp.はThanh Hoa省Nghi Son工場で年産14万トンの再生段原紙の建設を進めており、今年後半の稼働を予定している。GDT Paper Joint Stock Co.もNam Dinh省Bao Minh工業団地に年産30万トンの新マシンを導入し、2026年の稼働を目指している。
これらの動きは、環境基準を満たさない旧式設備の廃止に伴う供給不足を補うためのものであり、ベトナムの製紙業界における生産設備の更新と増産計画が活発に進められていることを示している。
*マレーシア;段原紙供給過剰による生産削減の動き
・供給過剰の背景
2020年以降、マレーシアでは約310万トンの再生段原紙の新マシンが導入され、国内生産能力が2019年度比で約3倍に拡大している。この急激な生産能力の増加は、中国が自国での古紙輸入を禁止したことを契機に、中国の大手段原紙メーカーがマレーシアを含む東南アジア諸国に生産拠点を設けたことが一因である。
・市場価格の下落
生産能力の急増により、マレーシア及び周辺地域での段原紙の供給が過剰となり、製品の市場価格が下落している。価格の下落は、メーカーの収益性を圧迫し、業績の悪化を招いている。
・原材料価格の高騰
中国の古紙輸入禁止により、古紙(OCC、ONP)の価格が高騰している。原材料費の上昇は、製造コストの増加をもたらし、メーカーの利益をさらに圧迫している。
・メーカーの生産停止
市況の低迷により、マレーシアの段原紙メーカーは生産停止を余儀なくされている。例えば、Pascorp Paper Industriesは2025年8月に生産を永続的に休止することを発表している。他にも、マレーシア唯一の新聞用紙メーカーで中芯も併抄するAHP(Asian Honour Paper)や段原紙メーカーのUPP Pulp & Paper(M)などのメーカーが昨年後半に生産停止を行なっており、業界全体でこのところ生産停止が相次いでいる。
これらの要因が重なり、マレーシアの段原紙市場は供給過剰による深刻な市況悪化に直面しており、メーカーは生産停止や事業ポートフォリオの見直しを迫られている。
北米市況
[新聞用紙]
北米市場の新聞用紙の需要は、1-2月の当初輸入関税懸念による前倒し需要から、徐々に従来の脆弱な需要トレンドに戻りつつある。全出荷に対し極めて高い比率の輸出が、本年1-4月では前年比▲15%近く減少しており、北米の需給バランス構造が崩れつつある。関税問題で応酬が激しさを増す中国向け、また欧州向けの輸出が大幅減となっている。本年度の北米市場の需要は同▲14-5%減と予想されており、需給バランスを保つには本年度は更に40万㌧程度生産削減が必要との見方がある。
[上質紙]
輸入関税の影響が不確実な中、輸入品中心に在庫確保による需要が進み、1Qは北米メーカーの出荷が同▲5.6%に留まる一方で、輸入が同+42.2%となった。北米メーカーの出荷は低調だが、IP/Georgetown工場(30万㌧)の生産停止で供給状況はタイトで、4月の生産稼働率は91%に上昇した。年初打ち出された価格は、4月までに$40-受け入れられた。4月以降ユーザーには様子見の姿勢が広がり、市場は幾分硬直気味である。夏の非需要期に向い、荷動きの鈍化が懸念される。
[コート紙]
輸入関税絡みの先行き市況への懸念から、1Qは在庫積み増し需要が見られ、特に3月は上質コート紙の輸入が、過去3か月の平均よりも50%も増加した。国内メーカーからの出荷は依然低調だが、Sappi/Somerset工場2号機(24万㌧)等の大幅な削減により、供給は概ねタイトである。米㌦安で輸入紙には値上げ圧力がかかりやすくなっていること、また7月の郵便料金の再値上げで、カタログ・広告等の需要への影響が懸念され、今後の動向に注視が必要である。
[中質紙]
1Qは需要が好調に推移した。欧州が中心となる輸入紙の比率は低く、また出荷の多くは実質関税ゼロのカナダの工場からとなるため、輸入関税の影響は印刷用紙で最も受けづらく、比較的安定した市況が期待できる品種である。
[段原紙]
米国の1Qの段ボール実出荷量は前年比▲2.1%の減少となった。段原紙の生産はこの間微増だが(+0.4%)、輸出は減少に転じており(▲7.7%)、特に米国との貿易摩擦が増大している中国向けは約▲40%と低調である。関税問題の今後の行方は不透明で、輸出の減少も懸念材料となり、供給過多が市場では負担となってきている。今年に入り8月までに合計230万㌧程度の段原紙の生産停止が実施、または予定されており、今後の需給変化への対応には注視が必要である。
欧州市況
[新聞用紙]
5月の新聞用紙価格は2Q契約価格が維持され、前月と横ばいとなった。需要に回復は見られず、メーカーの稼働率も低迷しているため、欧州メーカーは古紙、電力等コスト増を価格への転嫁が必要だが、3Qの値上げの意向を積極的に打診しづらい状況である。
[非塗工上質紙]
メーカーの値上げも、4月は結果的に値下がりに終わり、交渉は5月にも持ち越されたが、5月も前月横ばいとなった。コピー用紙の需要は春以降低調で、オフセット印刷用も教育分野の需要が続かず厳しい状況。輸入関税交渉の不透明さが市場に影響し、アジアのメーカーが積極的に販売を行なっている。
[コート紙]
4月以降のメーカーの価格修正は断念となり、交渉は5月に持ち越されたが、5月もなんとか横ばいで留まった。紙需要は低調で、メーカーの稼働率は依然として低調である。中国市場ではパルプ価格が下落し、その影響が欧州市場にも及び始めている。Kabel Premiumが倒産し、投資先も見通しが立たず生産は停止となった。ロトグラビア印刷用途の欧州メーカーとしてはUPMのみが残る。
[段原紙]
テストライナーはドイツ・フランス市場で€40-50の値上げが受け入れられたが、他市場では概ね横ばいとなった。
クラフトライナーの値上げ交渉は持ち越し。南欧市場ではドル安が影響し、北米品の値上げ姿勢は消極的なため、欧州市場の値上げ交渉への影響が懸念される。新マシンの稼働で今春以降年産150万㌧弱が追加され、市況軟化の加速が懸念される
中国・香港市況
[上質紙]
中国市場では春先の出版用途の需要が落ち着き、全体的に低調な状況である。紙商は在庫過多に悩んでおり、安値販売が見られる。パルプ価格の下落により、市況にも先安感が広がっている。
香港市場も同様に低迷しており、パルプ価格の下落と供給能力の増加が予想されていることから、市場価格も低位に推移することが見込まれる。
[コート紙]
中国市場では印刷会社が当面必要な分だけを購入しているため、紙商の在庫は高め基調となっている。パルプ価格の下落により、製品価格も下方圧力が強くなっている。
香港市場でも紙需要とパルプ価格が低迷しており、今後夏場の非需要期に向い、需要の回復は厳しいと見込まれている。値上げを模索するメーカーもあるが、需要の回復が見られず、受け入れは難しい状況である。
[板紙]
中国市場では段原紙の需要が依然低迷しており、特値対応も見受けられるが荷動きに繋がっていない。5月に入り、米中間の関税交渉で暫定的に緩和されたことにより、在庫補充の動きも見られた。古紙買い取り価格の上昇で、製品価格への転嫁も始まったが、実需の盛り上がりには繋がらず、価格は横ばい基調で進んでいる。
香港及びその他アジア市場では、アイボリーの価格が過去最低水準で推移しており、白板紙は古紙価格の上昇もあり若干反発したが、需要の低迷は相変わらず続いている。
【統計】4月「出荷・輸出入・国内需要状況」(日本)
2025年4月の紙・板紙合計輸出は15万3,655トン(前年比11.2%減)、輸入は7万1,113トン(同4.5%増)となった。国内需要は161万421トン(同0.8%減)となった。
内需とともに輸出が減少した。

【統計】4月 米国輸入状況
米国の2025年4月の紙・板紙の輸入は合計59万1,218トン(前年比6.9%増)、金額は6憶9,480.0万ドル(同14.8%増)となった。そのうち印刷用紙合計は25万82トン(同5.2%増)、金額は2億9,578万8千ドル(同11.3%増)となった。
同1-4月累計は紙・板紙合計で252万3,863トン(同9.3%増)、27億9,622万5千ドル(同10.3%増)となった。

組合員向けにTableauにて詳細データを掲載しております。
【資料】The Great Trade Hack トランプ貿易戦争の失敗と世界の動き
トランプ大統領就任後、関税の導入で各国との協議が継続され、今後の動向が懸念されるところ、本邦紙業界にも直接的、間接的な影響の可能性はあるが軽微にとどまるのではないかとの見方もある。
Richard Baldwin氏はThe Great Trade Hack: How Trump’s Trade War Fails and the World Moves onをCentre of Economic Policy Research(CEPR)から上梓した。
(抜粋)
そのなかで、米中の紛争は貿易戦争ではなく、米国の市場主導資本主義と中国の国家主導資本主義との相違によるシステム衝突であるとした。
また、米国は1980年代に自動車、半導体、鉄鋼の主要分野における同様の脅威を日本から受けたが、日本が重要な軍事同盟であり、極東における防壁であったことが違いであるとした。
そのうえで、米中システム衝突の解決策として次のように述べた。
- 現実的な目的 システムの変更ではなく達成可能な目標を定める。
- システムの相違を受け入れる 中国の経済モデルを認識し、消さない。
- 対話の機会を設ける 継続的な交渉の場をつくる
- 国内への投資 産業育成、革新、労働生産性の向上をはかる。
- 長期的な視点 世代を受け入れ、急な勝利を求めない。
本書は以下に公開されています。